【持続可能な調達】CSR調達とは何か?メリットと事例含めて解説

企業の長期的な成長のための観点に、ESGがあります。ESGとは、Environment(環境)・(Social(社会)・Governance(ガバナンス) の頭文字をとった言葉のことです。気候変動や地球環境への関心が高まるなか、企業活動に関しても環境への配慮や社会的責任への姿勢が注目されるようになってきています。それは自社内に留まらず、社外から資材を調達するときにも重要となってきています。本記事では、CSR調達とは何か、企業は調達先にどのような基準を設けて設定しているのか、について説明したいと思います。

目次

CSR調達とは何か?

そもそも、CSRとは何を意味するのでしょうか?

CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が組織活動を行うにあたって担う社会的責任のことを指します。ここでいう責任とは、従業員や消費者、投資家、環境などへの配慮から社会貢献まで、幅広い事柄に対して適切な意思決定を行う責任のことを言います。自社の利益を追求するだけではなく、社会全体の利益を考え、様々な活動を行うことを意味します。

ESGとCSRの違いについてはこちらをご覧ください。

CSR調達とは、このCSRの考えに則り、社会的責任の観点から調達先の選定条件を設定したり、調達先を選定したりして、サプライチェーン全体で社会責任を果たす取組みのことをいいます。

具体的には、自然環境、人権などへの配慮を調達基準として示し、調達先に順守を求めるといった行動を指します。

CSR調達のメリットとして、以下のことが挙げられます。

  • 企業の事業慣行のリスクを最小化する
  • 従業員のコンプライアンス意識を高める
  • 取引先や消費者からの評価の向上
  • 廃棄物の削減と資源効率の向上
  • 環境、社会関連法令への準拠につながる

企業はどのようなところを見ているのか?

現代社会では、環境や人権・労働、汚職・腐敗など様々な課題に直面し、持続可能な社会を形成するために世界規模で対応を進めていくことが求められています。

こうした環境のもと、近年、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」やSDGs、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」、国際労働機関(ILO)の「多国籍企業宣言」等の国際文書が発行・改訂されるなど、企業の取組みに対する社会的要請も増加しています。

では、実際に大企業は調達先に対してどのようなことを要請しているのでしょうか?

トヨタ自動車(株)

出典:https://global.toyota/jp/mobility/toyota-brand/features/emblem/

トヨタ自動車は、自動車産業ということもあり、日本国内だけでなく世界中のシェア率が高いです。そんなトヨタはどのようなCSR調達を行っているのでしょうか。

車のライフサイクル(資源調達〜廃棄段階)でのCO2排出量において、サプライヤーから調達した製品やサービスにおけるCO2排出量は大きな割合を占めています。そこでトヨタは、サプライヤーとの連携を強化し、 ライフサイクル全体を考慮した環境マネジメントを実施しています。サプライチェーンでの遵法活動やリスク管理などの環境マネジメントを通じて、社会と共に持続的に発展できる体制を構築しています。

例えば、2025年の目標において、廃棄物については、資源投入量と廃棄物量の最小化であったり、物流梱包資材については、梱包用プラスチック材の削減やリサイクルに向けた取り組みを実施しようと常に管理方法を改善し続ける姿勢を見せています。

大日本印刷(株)

出典:https://www.dnp.co.jp/corporate/pr/logo/index.html

DNPは、“2050年のありたい姿”を示すものとして2020年3月に「DNPグループ環境ビジョン2050」を策定し、「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現など目標を明確にして事業を進めています。

その他、サプライチェーン全体にCSR調達ガイドラインに沿って実行してもらい、主なサプライヤーや業務委託先に対して、定期的にガイドラインの取り組み状況や結果を調査・フィードバックして必要な改善に取組んでいます。

また、​​コンゴ民主共和国およびその周辺国の紛争地域において武装グループへの資金提供や児童労働などの人権侵害の原因といわれる紛争鉱物(錫(Tin)、タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold))について精錬所を特定・調査を行ったり、今後サプライヤーに対して該当精錬所に関する追加の調査を行い、よりリスクの低い精錬所への変更を要請したりするなど、サプライチェーン全体で責任ある鉱物調達を推進しています。

花王(株)

出典:https://www.kao.com/jp/who-we-are/globalhistory/logo_mark/

大手消費財科学メーカーである花王は、事業が自然資本に依存していることを認識し、持続可能な天然資源(パーム油や紙・パルプなど)の調達に取組んでいます。

花王は2022年より、人権問題への迅速な対応手段として、独立小規模パーム農園を対象にしたGrievance Mechanismを導入しています。Grievance Mechanismとは、現場(農園)の課題をNPOと共に確認・調査し、解決に向けた対応を花王が主体的に行ない、フォローアップするまでの取組みのことを言います。

また、森林破壊モニタリングの一環として、花王のサプライチェーンにおける森林フットプリント(消費財企業による森林をリスクにさらす産品利用や、銀行による同産品への資金提供によって影響を受ける、または今後受ける可能性がある森林と泥炭地の総面積のこと)の2023年導入に向けて準備を進めています。

以上の通り、企業は環境や人権、労働など様々な課題に対し、持続可能な社会を形成するためにサプライチェーン全体で協力し合っていることがわかります。また、調達先に対する環境面・社会面・ガバナンス面からの要請を順守できる企業が選定されています。

まとめ

  • CSR調達とは、社会的責任の観点から調達先の選定条件を設定することや調達先の選定をすることを指す。具体的には自然環境、人権などへの配慮を調達基準として示し、調達先に順守を求めるといった行動のことである。
  • 企業は、持続可能な社会を形成するためにサプライチェーン全体で協力し合っている。
  • 調達先に対する環境面・社会面・ガバナンス面からの要請を順守できる企業が選定されている。
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この記事を書いた人

慶應義塾大学SFC研究所
上席所員 笹埜健斗(ささの・けんと)

社会情報学者。専門は「データサイエンスを活用したSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」。高校時代、生死の境を彷徨い、哲学に目覚める。その後、国際哲学オリンピック日本代表、京都大学法学部卒業、東京大学大学院情報学環・学際情報学府修了を経て、慶應義塾大学SFC研究所上席所員および慶應義塾大学生成AIラボ所員。世界最大級のオンライン学習プラットフォームUdemyにて「サステナビリティ・ESG・SDGs」部門 No.1 講師。年間100回以上の講演会・セミナーに登壇。

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