【マテリアリティとは?】3つの考えを含め解説

近年、各企業がESG/サステナビリティに対してどう取り組んでいるのか、社会的な関心が高まっています。企業の取組内容やその結果を公表する際にも、企業が優先して取り組む重要課題を指す言葉である「マテリアリティ」が使われています。本記事では、このマテリアリティがどのような概念であるかを解説していきたいと思います。

目次

マテリアリティについて

意味

マテリアリティとは、企業が優先して取り組む「重要課題」を意味します。

マテリアリティという言葉は従来「従来会計に重要な影響を及ぼす重要な要因」という意味で財務報告など財務的な要素を持つ会計用語として用いられていました。

しかし、企業が持続的な成長をしていくためには、(短期的な)財務のマテリアリティだけでなく、長期的にどのような課題が企業のパフォーマンスに影響を及ぼすのかマテリアリティの幅を広げて検討する必要が出てきたため、上記の定義のようにより幅広い概念として扱われるようになりました。

役割

マテリアリティは、企業ごとに特定され、外部に向けて発信されるものです。特定までのプロセスも含め、公開されるケースも多くなりました。特にサステナビリティ経営においては、様々な課題の中で企業とステークホルダーの両者にとって大きな影響を及ぼすものを指します。SDGsなどの世界中にあふれる多種多様な課題に、どのように優先順位をつけ、どのようなことに積極的に取り組もうとしているのかなど、企業の方針をステークホルダーに提示することがマテリアリティの役割といえます。つまり、「どのような課題を重要視しているのか」だけではなく、「なぜその課題を重要視しているのか」までをわかりやすく示すことで、ステークホルダー(特に投資家)の意思決定にも役立ちます。

また、現代社会における重要な情報とは、財務指標だけに限らず、社会や環境に対してどう取り組んでいるのかという点も、将来の企業価値を推し量るための重要な情報になりました。

マテリアリティは、サステナビリティレポートで公開されています。詳しくはこちらの記事で解説しています。

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マテリアリティに関する複数の立場

ダブル・マテリアリティ 

ダブル・マテリアリティとは、環境や社会が企業に与える財務的な影響(財務マテリアリティ)と、企業活動が環境・社会に与える影響(環境・社会マテリアリティ)の両方を重視しようとする立場です。多様なステークホルダーへの開示を想定する場合は、環境や社会への企業活動によるインパクトも伝える必要があるため、ダブル・マテリアリティの考え方をとります。

財務マテリアリティとは、企業の中長期的な取組みや立場を把握する上で必要な事項であり、主に投資家が必要な情報となります。サプライチェーンのマネジメントなど、企業の事業に及ぼす可能性がある問題など、企業と投資家の意思決定に関わる項目では重要課題とみなされます。

また、環境・社会的マテリアリティとは、企業が環境や社会に及ぼす影響を理解する上で必要な事項であり、消費者や市民社会、投資家など幅広い階層の人々が必要な情報となります。人権や経済、環境、組織などに対する重大なインパクトを反映する項目が、企業にとって重要な事項とみなされます。

シングル・マテリアリティ

シングル・マテリアリティとは、ダブル・マテリアリティが財務マテリアリティと環境・社会マテリアリティの両方を重視するのとは異なり、企業がESGに関する課題から受ける財務への影響を考慮した立場です。

シングル・マテリアリティは、ダブル・マテリアリティの考えを受けて作られた言葉であり、単に財務面の影響を最重視するのではなく、環境や社会への影響も考慮した上でビジネスモデルを決定する、財務面と関わる環境・社会的な要素を重視して開示していく、というような意味合いが含まれています。

ダイナミック・マテリアリティ 

以上の2つの考えに加えて、「ダイナミック・マテリアリティ」という考え方も注目されています。2020年9月、サステナビリティ情報の開示基準を設定する主要5団体 (CDP・CDSB・GRI・IIRC・SASB)は、その共同声明によれば、マテリアリティを動的なものと捉え、「経済・環境・人への重要な影響を反映した事項の報告」と示しています。これは、社会が変化するのであれば、それに合わせて流動的に社会状況や科学的知見に応じて、企業戦略を変革させるべきという考えを表しています。

マテリアリティ特定のプロセス

マテリアリティとはサステナビリティに限定された用語ではなく、企業全体の今後の在り方を表すものです。そのため、マテリアリティの特定はサステナビリティ経営の推進戦略のために重要になります。

企業(経営者)は、どのような環境・社会課題の、どのような影響に対応すれば長期的に利益が増加するのかを判断する必要があります。同様に、投資家も投資先企業の財務に重大な影響を与える環境・社会面のリスクなどを見極める必要があります。

そのため、企業の戦略(中期経営計画)、引いては企業のビジョンや理念と照らし合わせて作成するだけでなく、投資家に限らず、従業員や消費者も含めた様々なステークホルダーとの対話を通して企業の「あるべき姿」を言語化する必要があります。そのため、サステナビリティ担当者だけではなく、役員なども参画する必要があるでしょう。

自社の業種や業界に特有の事情も考慮するために、競合他社の状況や国際的なフレームワーク(SASBなど)も活用することも多いです。

SASBについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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まとめ

  • マテリアリティとは、企業が優先して取り組む「重要課題」を意味する。
  • マテリアリティはステークホルダーの意思決定将来の企業価値を推し量る際に重要な情報である。
  • マテリアリティには財務への影響に及ぼす事項と環境・社会へのインパクトに関する事項という二面性があり、それぞれ「財務マテリアリティ」「環境・社会(インパクト)マテリアリティ」と呼ばれている。
  • マテリアリティには、企業がESGに関する課題から受ける財務インパクトを考慮する立場(シングル・マテリアリティ)と、財務マテリアリティだけでなく、環境・社会マテリアリティの両方を重視しようとする立場(ダブル・マテリアリティ)がある。近年では、社会が変化するのであれば、それに合わせて流動的に社会状況や科学的知見に応じて、企業戦略を変革させるべきという考え(ダイナミック・マテリアリティ)も提唱されている。
  • マテリアリティは、企業全体の今後の在り方を表すものであり、中期経営計画や理念と照らし合わせて作成するだけでなく、投資家や従業員、消費者も含めた様々なステークホルダーとの対話を通じて作成される必要がある。
  • サステナビリティ担当者だけでなく、役員も参画して作成される必要がある。
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この記事を書いた人

慶應義塾大学SFC研究所
上席所員 笹埜健斗(ささの・けんと)

社会情報学者。専門は「データサイエンスを活用したSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」。高校時代、生死の境を彷徨い、哲学に目覚める。その後、国際哲学オリンピック日本代表、京都大学法学部卒業、東京大学大学院情報学環・学際情報学府修了を経て、慶應義塾大学SFC研究所上席所員および慶應義塾大学生成AIラボ所員。世界最大級のオンライン学習プラットフォームUdemyにて「サステナビリティ・ESG・SDGs」部門 No.1 講師。年間100回以上の講演会・セミナーに登壇。

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