昨今、SDGsやESGといった言葉を耳にする機会が増えてきました。しかし、SDGsもESGも似たような場面で取り上げられることが多いので違いが少しわかりにくいかもしれません。そこで、今回はこの2つの違いについて解説し、後半では「サステナビリティ経営」についても説明していきます。
サステナビリティとは?
サステナビリティ(Sustainability)は直訳すると「持続可能性」です。元々この言葉は,1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議」で宣言された「持続可能な開発」に由来しています。その頃の世界では、経済活動のために環境を汚染・破壊し、大量生産大量消費を行っていましたが、その結果として公害や地球温暖化などが歪みとして生じていました。そのような現状に対して、経済活動のためとはいえ地球環境を破壊し続けていくと数十年後には大変なことになってしまうかもしれない、という考えから、「持続可能性」という言葉が生まれました。
元々は地球環境に関する用語だったのですが、企業の経済活動を長く続けるためには、「環境」・「社会」・「経済」の観点から総合的に考える必要がある、ということでより広い概念として拡張されてきました。これらの3つのカテゴリーを具体的に示すと、以下のようになります。
環境
森林伐採や海洋汚染、地球温暖化といった課題を解決することは、私たち人類が生存し続ける上で必要不可欠となっています。「カーボンニュートラル」という言葉の通り、2050年までに地球温暖化を阻止するために温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標が宣言され、社会全体がそちらの方向に動いています。
企業活動においては,利用するエネルギーを化石燃料から生み出されたエネルギーではなく,再生可能エネルギーに切り替えることや,使用する素材をリサイクル素材に切り替えることなどを指します。また間接的ではありますが,DX化を推進することでペーパーレス化が進んだり,経営資源に最適配分によって環境負荷を下げることも「環境」の項目に含まれます。
社会
労働者の健康や安全,多様性の推進などがESGの「社会」の項目に当たります。会社の福利厚生を充実させたり,健康経営に取り組んだり,障害者を雇用したりすることが代表的な取り組みとされています。また,児童労働や難民問題,フェアトレードなど,一部の国や地域だけにとどまらずグローバルにおいても社会の安定につながると見込まれています。
ESGの「社会」について,詳しくはこちらをご覧ください。
【ESGのSocial・社会とは?】具体的アプローチ5事例を紹介
経済
現在企業が行っているビジネスが長期的に続くか、という観点です。ここに関しては、前述の「環境」や「社会」と関わってきますが、環境に負荷をかけながら事業を行っていたり、従業員に過重労働を強いたりしているビジネスモデルである場合には、近い将来に破綻する可能性が高くなるわけです。「環境」や「社会」を考慮するという点では上記の2つと同じですが、「環境・社会に配慮しなければならない」という義務感ではなく、配慮しないと、コストがかさんでしまったり、不祥事を通して企業イメージを下げてしまったりすることを指します。
SDGs/ESGとは?
ここで、SDGsとESGの定義について確認したいと思います。
SDGs
SDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字を並べて最後に複数形の”s”をくっつけたものです。2000年の国連ミレニアムサミットにて採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後継として2015年9月の国連サミットで加盟193カ国の賛同により採択されたもので、社会の様々な課題を17の目標(ゴール)と169のターゲットにまとめ、2016年から2030年の15年間で達成することを目標に掲げました。最近では企業が発表する資料ロゴが載っていたり,スーツの襟にロゴを付けている人を見かけたりすることも増えてきましたね。
ESG
ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字をとったもので、投資や経営の場面で主に利用される用語です。利益を上げることだけでなく,サステナビリティに力を入れる「ESG経営」や、投資家が企業を評価する際に、企業のESGへの取組み評価する「ESG投資」が盛んになってきています。
この2つの違いとしては対象者が挙げられます。SDGsは「誰一人取り残さない」という理念の下にあらゆる人や組織が対象者であり利益者であるとしており、その重点は主に消費者や労働者など大勢の人々にあります。ESGの主な対象者は投資家や投資環境をつくる規制当局となっています。
つまり、SDGsは国際社会において、ESGは企業や投資家がどのようにサステナビリティを実現していくかの指針となっています。
ESGについて事例とともにもう少し詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
サステナビリティ経営とは
先ほどまとめたように、サステナビリティとは環境、社会、経済など広範囲にわたる持続可能性を意味しています。サステナビリティ経営は、上記3つの観点すべてにおいて持続可能な状態を意識した経営のことです。
自らの企業活動が環境・社会・経済という3つの要素に与える影響について考え,配慮することが事業を長く続けていくためには欠かせないため、サステナビリティは、企業活動においても重要なものとなっています。
例を出すとすると、企業活動によって産まれた廃棄物をゼロにすることを目指し、地球環境への負荷を軽減することは、良好な生活環境の実現につながります。また、ジェンダーやLGBTを尊重した上で人材を活用することは、一企業の雇用を安定することにとどまらず多様性のある社会の実現にもつながります。
このような長期的な視点に立った考えを取り入れた経営をサステナビリティ経営と呼んでいます。サステナビリティ経営についてもう少し詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
サステナビリティ経営の事例
サステナビリティ経営を実践している企業として、カルビーとサラヤの活動を紹介したいと思います。
カルビー
カルビーはポテトチップスなどのスナック菓子を中心に事業展開を進める食品メーカーです。商品を通じた食の安全・安心の確保と、多様なライフスタイルへの貢献を目指しています。
カルビーでは、従業員一人ひとりにチャレンジする機会を提供し、ライフワークバランスを尊重しながら活躍できる職場づくりが推進されています。2020年にはオフィスのモバイルワークを標準化するなど、働き方の多様性への対応がなされています。
特に「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という信念を掲げ、ダイバーシティの最優先課題として女性の活躍を推進しています。10年間で女性管理職を20%以上まで引き上げるなど、働く女性のための環境整備に積極的に取り組んでいることが見てとれます。
SARAYA
サラヤは、家庭用および業務用洗剤や消毒剤、食品などの製造販売を手掛けるメーカーです。「世界の衛生・環境・健康に貢献する」を企業テーマの下、より豊かで実りある地球社会の実現が目指されています。
企業を代表するヤシノミ洗剤には、植物原料であるパーム油を使用していますが、パーム油の生産によって引き起こされる熱帯雨林減少問題の解決にも尽力してきました。
熱帯雨林保護のために打ち出されたのが「ボルネオ環境保全プロジェクト」です。プロジェクトでは、油の生産により分断された森で隔離された動物たちを救出し、森へ返す活動を続けています。活動には商品の売上の一部があてられ、消費者は商品購入を通しサステナビリティな取り組みに参加できるという仕組みになっています。
また、プラスチックごみの削減にも力を注いでいます。1982年には食器用洗剤で初めて詰め替えパックを発売しました。現在は、多くの商品に詰め替え方式が採用されています。
サステナビリティ経営におけるESGとSDGsの違い
ここで、サステナビリティ経営におけるESGとSDGsの違いについて説明したいと思います。しかし、企業が取り組む際にはいくつかの重要な違いがあることに注意が必要です。
SDGsの求める共通価値の創出に向けて何をするか(Do)が重要であり、SDGsに取り組む企業の多くでは、経営のビジョン・戦略・計画として、トップである社長と経営層を中心に全部門によって検討されています。
一方、ESGの対象は投資家及び投資環境をつくる規制当局に強く重点が置かれており、ESGの求める非財務価値の観点で企業としてどうあるか(Be)が重要であり、ESGに取り組む企業の多くでは、経営企画やIRなどの部署が外部から要求されている報告・開示・評価に対して対応しています。