「AI」というワードが遂に芥川賞の舞台に登場しました。
2024年1月17日、第170回芥川賞は九段理江さんの「東京都同情塔」という作品が受賞しました。
AI元年の翌年、早くも文壇とAIの距離がぐっと縮まるという体感。AIらしい進化のスピードです。
AIをスパイスとした作家とその作品『東京都同情塔』とは
作者の九段さんは2021年に『悪い音楽』で文學界新人賞を受賞し、デビュー。
その後太宰治「女生徒」をモチーフにした『Schoolgirl』で第166回芥川賞候補に選ばれ、2023年には『東京都同情塔』で第170回芥川賞を受賞しました。
『東京都同情塔』は、犯罪者が快適に生活できる高層タワーが建設されるほどに変容し、生成AIが浸透した未来の日本社会を背景に現代社会とテクノロジーの進展が人間の内面に及ぼす影響を掘り下げた作品です。
2024年芥川賞がAIと出会う
『東京都同情塔』という作品は、創作過程においても作品中においてもAIが登場します。
早速行われた芥川賞の受賞のインタビューで作者の九段さんは下記のようにコメントしています。
「今回の小説に関しては、チャットGPTのような生成AIを駆使して書いた小説で、おそらく全体の5%くらいは生成AIの文章をそのまま使っているところがあるので。
これからも利用しながら、かつ利用しながらも自分の創造性を発揮できるように、うまく付き合っていきたいと考えています」
文章の機微を心得た作家が思いとおりの文章をAIに書かせる事はどんなにプロンプトの達人であっても難しい事でしょう。
もはや、その場面においてはAIはいらず、作家が思いとおりに書けばよい、となります。ではどのようにこの作品でAIは生かされているのでしょうか。
文学作品中に生きるAI
選考委員の堀江敏幸さんは下記のように評価しています。
「AIの提案を受け入れながら話す母と、SNS上の情報を取捨して語る娘の、質の異なる空虚を混ぜあわせる滑らかな手つきが網膜に残る」
また選考委員、島田正彦さんは「そこにAIなどが登場して、このテーマにまつわる達観を披露したりするのだが、これもユニークな新機軸となっている」とコメントしています。
これらの選考委員のコメントからも制作工程において使われたAIの度合いよりも、作品中で人間と共にあるAIという一つの存在感が斬新でAI自体に注目度が高まった作品だと考えます。
AIで作った作品ではなく、AIを日常的に活用する作家がAIに適材適所の仕事をさせて出来上がった作品です。
ことばとAI
また九段さんは言葉について下記のように発言しています。
「この作品は、言葉で何かを解決しよう、言葉で対話をするということを、あきらめたくないと思っている方のために書いた作品と思っています。
言葉で解決できないことというのは、何によっても絶対に解決できないと私自身は考えております。言葉によって解決することをあきらめたくない、そういった気持ちがこの小説を書かせてくれました」
人間がAIを活用するにあたってもプロンプトが必須。
AIとともに創造的に生きていくには文学作家のみらず言葉は常に重要な要素です。
九段さんは日常的にもAIを活用しているとの事。今後もAI業界の観点からも注目の作家さんです。
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