Google Researchが開発した「InkSight」は、従来の紙とペンの手書きメモや写真からスタイルを維持したままデジタル化できる技術です。
InkSightの最大の目的は、手書きの文字や図形を正確にデジタル化することで、物理的なノートの魅力を残しつつ、デジタルインクとして活用できるのが特徴です。それだけではなく、実際に書いたであろう書き順も解読。
InkSightの特徴と技術の詳細
InkSightは、単に文字認識(OCR)を行うだけではなく、「オフラインからオンライン」への変換を目指しています。これを「デレンダリング(derendering)」と呼び、手書きの内容をそのままペンで描いたような形で再現する技術。具体的には、以下の要素が特徴となります。
- 多用途な変換
単純な文字認識だけでなく、手書きの図形やスケッチにも対応。
背景が多様な画像からも認識可能で、複雑なシーンに対応することが可能。
- 少量のデータで学習
従来のように大量のペアデータを用意する必要がなく、一般的な学習データからもモデルを効果的に訓練できるのが特徴。
- トークナイズ処理
デジタルインクは、x座標とy座標をトークン化する独自の方法で記録され、大規模言語モデルと連携して利用することも可能。
すべての単語で、文字の色が虹のシーケンス ROYGBIV に従って赤から紫に変化します。
各ストローク内で、色合いは暗い色から明るい色へと変化します。
デジタルインクの視覚言語モデル
5 つの異なるタスクタイプで構成されるトレーニング ミックスを作成
レンダリング解除タスク(デジタル インク出力を生成)
①画像のみ
②画像と、OCR モデルによって認識された付随テキストの両方を使用
テキスト出力を生成する認識タスク
③実際の画像を活用
④合成画像を活用
⑤認識とレンダリング解除の組み合わせ(テキストとインクの出力を伴う混合タスク)
単一ストロークのインクのインク トークン化の図
各ポイントは、座標 x (影付きのボックスの左半分) と y (右半分) をエンコードする 2 つのトークンで表されます。
このインクのトークン シーケンスは、ストロークの開始を示す b で始まり、その後にサンプリングポイントの座標のトークンが続きます。
InkSightとOCRの違い
従来のAI-OCR(Optical Character Recognition)とInkSightの主な違いは、その技術的アプローチと用途の広さにあります。
技術的アプローチの違い
- AI-OCRは、画像に含まれる文字を検出し、テキストデータとして変換する技術です。
主に印刷物やドキュメントの文字を対象とし、画像内の文字列を認識してデジタルテキストに変換。
- InkSightは、単なる文字認識を超えて、手書きの筆跡をそのまま「ペンの軌跡」として再現します。
これにより、物理的なノートの筆致やスケッチを、あたかもデジタルで描いたかのように変換できるのです。
これを「デレンダリング(derendering)」と呼び、手書き特有の不規則な形状や多様な背景にも対応。
用途と応用の幅
- AI-OCRの用途は、主にドキュメント管理やデジタルアーカイブ向けで、印刷文字やフォントベースのデータに強みがあります。
請求書やパスポートの自動読み取りなど、構造化されたデータの処理が中心です。
- InkSightは、教育、クリエイティブなデザイン、学習ノートのデジタル化など、より自由度の高い応用に対応します。
手書きの図形、グラフ、そしてスケッチなどもデジタル化することで、デザインやアイデアの整理に使えるのが強みです。
また、InkSightのトークナイズ技術により、デジタルインクは座標ベースで記録され、さらに大規模言語モデルと連携して分析や処理が可能です。
データセットの利用と汎用性
- AI-OCRでは高品質な認識には大量のペアデータが必要で、特にフォントや言語のバリエーションに依存することが多い。
- InkSightは、少量の学習データでも高い汎用性を持ち、背景や言語に依存せずに動作します。
実際、テキストとインクのハイブリッド出力を実現することで、手書きの図形や多言語のテキストにも適応できる点が特徴。
このように、AI-OCRは印刷文字の認識に特化しているのに対し、InkSightは手書きの自由な表現をそのままデジタルに変換する新しい技術です。
教育現場やクリエイティブ分野での応用が期待されている点も、両者の大きな違いです。
GVS、Small-i、Small-p、Large-i のパフォーマンスの比較
単純なスケッチのレンダリング解除が可能ですが、余分なストロークや位置がずれたストロークなどの重大なアーティファクトが依然として発生。
実用的な応用とユーザーメリット
この技術により、物理的なノートとデジタルツールを統合することで、ノートを検索・編集しやすくし、プロジェクト管理や学習効率を向上させることができます。
また、教育やデザインなどの分野で、直感的な手書きの利便性を保ちつつ、デジタル化による利点を享受できます。