生成AI(Generative AI)が発展し、私たちの生活がますます便利になりました。
AIを使って、画像や文章、さらには動画まで自動生成できるようになり、多くの人がその可能性に興奮しています。
その中で、「AIが生成したデータを次世代AIの学習に使えば、効率的だろう」という考えを持つ人が増えています。
私も同じ考えを持ったことがあります。
しかし、AIが自分で作ったデータで学習を繰り返すと、だんだんおかしなことを言ったり、画像を作ったりするようになることがあります。
では、なぜそれが起こるのか、どうすれば防げるのかについて解説いたします。
AI初心者が陥りやすい「ラクをしよう」という考え
「生成AIがデータを作れるのだから、次世代AIの学習にも生成されたデータを使えば楽なのでは?」と考えるのは自然なことですよね。
- AI生成のデータを使用することでコスト削減
実際のデータを集めたり、ラベル付けを行ったりするのには時間とコストがかかる。
➡AIが自動で生成したデータを利用して学習させれば、時間も費用も大幅に削減できる。
- 大量データの生成で精度を向上
AIを効果的に学習させるためには、多くのデータが必要です。しかし、現実世界から集めるのは難しいデータもあります。
➡AIがそのデータを生成できるなら、より多くのデータを使って精度の高いモデルを作ることができる?!
- 新しいデータが作れる
実世界では存在しないユニークなデータを生成AIで作ることにより、AIが対応できる幅を広げられるかもしれない。
これらの考えは一見合理的で便利に見えますが、生成されたデータをそのまま使用することにはリスクが伴います。特に「モデル崩壊」という問題が発生する可能性があります。(簡単に:モデル崩壊=AIの劣化、AIの性能低下)
モデル崩壊とは?
モデル崩壊とは、「AIが自ら生成したデータで学習を繰り返すことで、モデルの精度が徐々に劣化し、正しい結果が得られなくなる現象」です。
なぜこれが問題なのでしょうか?
AIが生成するデータは、必ずしも完璧ではありません。
少しずつ誤差やノイズ(データに含まれる不要な情報など)が含まれ、それを繰り返し学習すると、最終的にモデルの出力は本来の目的から逸れてしまう可能性があります。
これが「モデル崩壊」です。
モデル崩壊の具体例
- 翻訳AIの学習
日本語から英語への翻訳AIが生成した翻訳結果を再学習させると、翻訳精度が低下することがあります。
これは、生成された翻訳結果に誤りや偏りが含まれていた場合、それが再学習で強調されるためです。
日本語は特に他の言語と比べて文法や表現が非常に複雑 で、文脈によって意味が大きく変わることがあるので、意味不明な翻訳結果が増えることがあります。
- 画像生成AIの学習
AIが生成した画像を使って、新たな画像生成AIを訓練するとします。
最初のうちはうまくいくかもしれませんが、AIが生成した画像は、微妙に劣化していたり、本来の人間が撮影した画像とは異なる特性を持っているかもしれません。
それを何度も繰り返し学習することで、最終的にはAIが生成する画像がぼやけたり、非現実的になってしまいます。
- テキスト生成AIの学習
AIが生成したテキストを使って学習を続けると、テキストの品質が次第に低下し、同じフレーズや不自然な表現が多く含まれるようになります。
これにより、ユーザーにとって有益な情報を提供できないAIとなってしまいます。
モデル崩壊を引き起こす原因
- データの質が低下する
生成AIは、学習したデータに基づいて新しいデータを生成します。
しかし、生成されたデータには元のデータに含まれなかった「ノイズ」や「誤り」が含まれることがあります。
このような質の低いデータで次世代AIを学習させると、そのAIは徐々に誤った学習を行うようになります。
- 同じデータパターンが繰り返される
生成AIは、過去の学習データに基づいて新しいデータを作りますが、生成されるデータはしばしば似通ったものになります。
そのため、AIが次第に単調で多様性に欠けるデータしか学習しなくなり、精度が低下していくことになります。
- フィードバックループの問題
AIが生成したデータを次の学習に使い、それを繰り返すことで、エラーやバイアスがどんどん蓄積されていきます。
結果として、AIの精度が著しく低下し、実際の現実に対して意味のある予測ができなくなる状態に陥ります。
このように、モデルが徐々に「崩壊」していく現象は、生成AIを安易に使うことで起こりやすくなります。
モデル崩壊の対策
モデル崩壊を防ぐためには、以下のような対策が考えられます。
- 生成されたデータと実データをバランスよく使う
AI生成データを活用することは可能ですが、それだけに頼ることは避けるべきです。
実際の実世界から取得したデータと生成データをバランスよく組み合わせることで、AIが偏った学習をしないようにします。
- データの質を定期的に評価する
生成データの質を定期的に評価し、不適切なデータを排除する仕組みを導入します。
人間の専門家によるデータの検証や、精度評価のためのテストセットを使用して、AIが正しい学習を行っているかを確認することが重要です。
- データの多様性を確保する
生成AIが同じパターンのデータを繰り返さないよう、さまざまなデータソースを取り入れ、異なる言語のデータ、異なるスタイルのデータなど生成されるデータに多様性を持たせることが大切です。
また、AIが新しいパターンや異なる観点からのデータを学習する機会を作ることも効果的です。
- フィードバックループを避ける
AI生成データをそのまま次の学習に使うことは避けるべきです。
学習に用いるデータセットを人為的に調整し、生成されたデータに依存しすぎないようにします。
なぜ人間のデータが重要か
モデル崩壊は、AIの性能低下だけでなく、AIが生成した偏った情報が拡散されることで、社会に悪影響を与えるといった倫理的な問題にもつながる可能性があります。
モデル崩壊を防ぐためには、人間が生成したデータや現実世界のデータをAIに提供することが重要です。
人間の判断やリアルな情報を反映したデータを使うことで、AIの誤りやノイズを補正し、精度を保つことができます。
まとめ
AIが生成したデータを利用すること自体は、労力やコストを削減する有効な手段です。
ただし、それだけに頼りすぎるとモデル崩壊のリスクが高まり、結果的にAIの性能が低下してしまいます。
楽をすることは悪いことではありませんが、生成データと実世界のデータのバランスを保ち、質と多様性を確保することです。
モデル崩壊を防ぐためには、常にデータの質や学習の過程を監視し、適切な対策を講じることが重要です。
AIと人間のデータの協力関係を保つことで、生成AIの進化を楽しみながらも、信頼性の高い結果を得ることができるでしょう。