【事例紹介】地域自治体のAI導入事例について解説

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近年、AI(人工知能)技術は急速に進化し、その活用範囲は民間企業に留まらず、地域自治体にも広がっています。各自治体では、住民サービスの向上や業務の効率化を目的にAIを積極的に導入し、実用化が進んでいます。本記事では、日本国内のいくつかの自治体におけるAI活用事例を紹介し、それぞれの背景や具体的な活用方法について解説します。

東京都:住民対応のチャットボット導入

導入の背景

東京都では、住民からの問い合わせが膨大な数に上るため、効率的な対応が必要とされていました。特に、頻繁に寄せられる同じ質問に対して職員が対応する負担を減らし、住民への迅速な対応を実現するため、AIチャットボットの導入が検討されました。こうした背景から、東京都庁は比較的早い段階でAI技術を活用し、行政サービスの改善を図っています。

活用方法

東京都は2022年1月から、都庁においてAIを活用したチャットボットサービスを運用しています。このチャットボットは、都民からの問い合わせに自動で応答するシステムで、東京都庁のホームページを通じて利用可能です。住民からのよくある質問や、手続きに関する基本的な問い合わせに24時間対応し、職員の負担を軽減することを目的としています。

また、このAIチャットボットは、「ゴミの分別方法」や「税金に関する手続き」など、多岐にわたる質問に対応できるよう設計されています。利用者が入力した質問に対してAIが適切な回答を自動生成することで、迅速かつ正確な情報提供が可能となりました。

このシステムの導入により、職員が対応しなくても済む質問が減少し、都庁全体の業務効率が向上しました。また、AIチャットボットは利用状況に応じて学習を続けるため、対応の精度も時間とともに向上し、東京都民へのサービス品質が向上しています。

福岡市:AIを活用したコロナ患者搬送ルートの最適化

導入の背景

福岡市では、新型コロナウイルス感染者の急増に伴い、患者を宿泊療養施設へ搬送する業務が複雑化していました。特に、患者の住居位置や施設の空き状況、搬送車両の定員など、さまざまな条件を考慮する必要があり、効率的な搬送が課題となっていました。そこで、業務の効率化を図るために、AIと量子コンピューター技術を導入することが決定されました。

活用方法

福岡市は、AIベンチャーのグルーヴノーツが提供する「マゼランブロックス」というクラウドサービスを導入し、AIと量子コンピューター技術を組み合わせた搬送ルート最適化を実現しました。このシステムは、「搬送患者数」「住居までの所要時間」「車両の定員」「宿泊施設の空き状況」などの複数の条件を入力することで、量子コンピューターが瞬時に最適な搬送ルートを作成します。

これにより、従来は手作業で行っていた複雑な搬送計画が自動化され、感染者数が急増した際でもスムーズな搬送が可能になりました。結果として、搬送業務の効率化が進み、医療機関や宿泊施設の負担軽減にも寄与しています。

横浜市:AIを活用した図書館サービスの最適化

導入の背景

横浜市では、地域の図書館利用を促進し、市民に対する知識や情報へのアクセスをより充実させるために、新しい技術の導入が求められていました。従来の蔵書検索システムでは、利用者が限られた情報しか得られないことが多く、利用者のニーズに応じた図書探索が難しいという課題がありました。そこで、AIを活用した新しい図書探索システムを導入することが決定されました。

活用方法

横浜市の図書館では、AIを活用した「AI蔵書探索」システムが導入されました。このシステムは、利用者が思いついた言葉や文章を入力すると、それに関連する本をAIが自動的に提案してくれる機能を持っています。これにより、利用者はキーワード検索だけでなく、自由な入力から新しい本との出会いが可能になりました。

また、「Web本棚」という機能も導入されており、利用者が検索した本の周囲に配置されている関連書籍をオンライン上で探索できるようになっています。この機能は、実際に図書館の書棚を歩くように、本の近隣にある関連図書を発見できるというメリットがあり、従来の検索方法では見つからなかった本との偶然の出会いを提供します。

さらに、横浜市は市の公式LINEアカウントと連携したサービスの提供も予定しており、LINEを通じて利用者が簡単に図書館の蔵書情報にアクセスできるようになる予定です。これにより、利用者は外出先や自宅からでも手軽に図書館のサービスを利用でき、AIを活用した図書館の利便性がさらに向上することが期待されています。

このAI導入によって、利用者はより柔軟でパーソナライズされた図書検索体験を得られるようになり、図書館の利用促進にも大きく寄与しています。

岩手県:AIを活用した災害時の双方向情報伝達システム

導入の背景

岩手県陸前高田市は、東日本大震災で甚大な被害を受けた地域の一つであり、災害時における迅速かつ的確な情報伝達の重要性を痛感していました。特に、災害発生時には、住民の安全を確保するために、即時に避難を呼びかけたり、被害状況を収集するシステムが必要不可欠です。これに対応するため、陸前高田市は新たなAI技術を活用した双方向の情報伝達システムを導入しました。

AIの活用方法

陸前高田市では、自動音声で一斉に電話をかける「オートコール」とAIを組み合わせた「双方向情報伝達システム」を導入しました。このシステムは、災害発生時に住民に対して自動音声で避難の呼びかけを行うだけでなく、住民からの応答をリアルタイムでAIが解析し、避難状況や被害情報を即座に集約します。

例えば、住民がオートコールを受けて「避難が完了した」や「家族が避難できない」などの選択肢に応答すると、その情報が自動的にAIによって分析・集計され、市の災害対策本部に送信されます。これにより、避難が完了していない住民や、助けが必要な地域を迅速に特定でき、災害対応の迅速化と効率化が図られます。

このシステムの導入により、災害時の情報伝達が一方向から双方向に進化し、自治体はよりリアルタイムで正確な状況把握が可能になりました。また、従来の電話網を利用するため、特別な機器やスマートフォンを持たない高齢者や住民にも広く対応できることが大きな利点です。

北海道:AIを用いた観光案内チャットボットの導入

導入の背景

北海道では、観光業が地域経済の重要な柱となっているものの、従来の観光案内体制にはいくつかの課題がありました。観光情報は主に市町村のホームページや観光案内所を通じて提供されていましたが、「知りたい情報が見つからない」「案内所の営業時間に限りがある」「外国人観光客との言語の壁」といった問題が浮上していました。これらの課題を解決するため、北海道ではAI技術を活用した観光案内システムの導入が検討されました。

活用方法

北海道の釧路市では、他言語対応型のAIチャットボット「kuzen」が導入されました。このシステムは、株式会社コンシェルジュが提供するもので、観光客が知りたい情報に対して柔軟に応答できる点が特徴です。「kuzen」は、会話シナリオの設計において制約が少なく、他の事業者が提供する観光サービスやシステムともAPI接続を通じて簡単に連携できるため、幅広い質問に対応できます。

これにより、観光客は観光スポットの案内、イベント情報、交通アクセスに関する質問など、さまざまな問い合わせに対して24時間いつでも応答を受けることが可能です。また、チャットボットは英語や中国語、韓国語といった多言語に対応しており、外国人観光客が言葉の壁を感じることなく、スムーズに観光情報を得ることができます。

このシステムの導入によって、観光案内所の業務負荷が大幅に軽減され、サービス品質の向上が図られました。特に、AIチャットボットは営業時間に関わらず利用できるため、観光客が必要な情報をいつでもどこでも取得できる点で、利便性が大きく向上しています。

まとめ

AI技術は、地方自治体においてもさまざまな形で導入され、住民サービスの向上や業務の効率化を実現しています。各自治体は、地域特有の課題を解決するために、AIの導入を積極的に進めており、今後もその活用範囲は広がっていくことでしょう。AIを活用することで、限られたリソースを効果的に活用し、住民の生活の質を向上させることが期待されています。